●職場の問題解決へ、決断できない若手リーダーたち。
プログラム前半の研修で、これまでのように社長の意見と決断に、ただ従うのではなく、自分たちの意見や考えを述べ、それを会社に反映させようという、若手社員のリーダーとしての意識改革はだいぶ進んだ。そしていよいよプログラム後半の職場の問題解決に取り組むステージに入った。後半の1回目、2回目は、それぞれのチームは活発に意見を出し合い、「うちってこんなとこあるよな!」「ここを改善したら上手くいきそうだ!」などなど・・・こうしてみよう、ああしてみようと積極的な意見交換がなされていい雰囲気。しかし、3回目あたりから予測していた中だるみに陥った。報告会の日は迫るが、メンバーの動きは鈍い。
理由はわかっていた。これまでは、具体的な解決策は全て社長が決めていた。その正否の責任は社長がとれば良かった。しかし、彼らが進めている問題解決のための施策は、自分たちで決断し、事を進めなくてはならない。今まで経験のないこと。どうしていいかわからない・・・。そこで、止まってしまっていた。
「進行が遅れているのが気になっていたんです(でも、そのままにしてしまいました)」「自分たちがやらなくては、前に進まないとわかっていたんです(でも、どうしていいかわからなかったんです)」というのがメンバーの弁。でもこれはすべて言い訳。どうしていいからわからないから、そのままにしていた⇒(社長がなんとかしてくれた)では今までと同じ。どうしていいかわからないから行動してみました。わからない時こそ「アクション5」。「周りを見る」「感じる」「思ったことを口に出す」「人の話を聞く」「わからないことはそのままにせずに訊く」「まず行動」全てみんなができることばかり!できることをやらない人間に、会社や社長を否定する資格はない。とハッパをかけた。かけ続けた。
やるべきことが明確になってメンバーの目に力が戻った。
●遂に出た社長のわがままを拒否。
若手リーダーたちが、着々とプレゼンのための資料をまとめているさなか、社長の北山氏が、私に話しかけてきた。「東条さん、彼らのプレゼンの内容を事前に見せてもらえませんか。できれば研修会のレポートも見たいな」。私は断固拒否した。「ダメです。もし見てしまったら、絶対口を出したくなります。社長、ここまで我慢したのですからメンバーを信じて待って下さい。必ず満足できる発表をさせますから」。「わかった・・・」と北山氏はつぶやいた。
●自立を始めた若手リーダー、見守る社長。
プログラムの最終日。報告会の日がやってきた。チームに分かれた若手リーダーたちが、職場環境の改善に取り組んだ成果をプレゼンするのだ。チームごとに壇上に上がり、それぞれの成果を発表するのだが、真っ先に壇上に上がったのは、意外な人物だった。いつもみんなから少し離れた位置にいて、ちょっと引きこもりを思わせる人が、発表を始めたのだ。彼は、緊張のあまり手が震えているように見えた。しかし、発表する声はしっかりと大きく、その内容も素晴らしいものだった。期待以上の成果だった。
メンバーの発表が終わり、社長が講評を行うため壇上に登った。私は、それぞれの発表に、社長が、もっとこうしたらいい、といった意見を述べるのではないか、と一抹の不安を感じていたが、杞憂に終わった。
「良くやってくれた。ありがとう、感謝している」。北山氏は、若手リーダーたちの成長を率直な言葉で喜んだ。
報告会の後の懇親会で、私は北山氏に「社長、よく我慢しましたね」。北山氏は「社長5ヶ条の言うとおり、社員は社長のカガミです。真っ先に変わるべきは私だったんだと、今回のプログラムではっきりわかりました。これからは、彼らの意見を聞き、その活動を見守っていきますよ。東条さん、ありがとう」と私の手を握った。
プログラムのエピローグとして、振り返りのための個別面談を行った。
メンバーによって得られた成果はまちまち。ただ、共通していたのは、「職場の雰囲気を明るくしたい。これまでは、自分たちが暗くしていたんだと思う」「上司や後輩にも遠慮しているところがあった。もっともっと言ってもいいんだとわかった」「部下にシッカリとものが言えなかった。これからは、叱るべき時は叱り、指導すべき時は指導する姿勢で取り組んでいく」「互いに言い合うようになった。ストレスが軽減した」など、言いたいことが言い合える雰囲気ができてきて、職場が明るくなったということ。
職場にはまだまだ解決すべき問題が山積している。これで全てが終わったわけではない。ただ、職場をよりよくするのは「社長にしてもらうのを待つ」のではなく「自分たちが率先してやる」という意識が芽生え、仲間同士協力していくというベースができつつあるのは確か。
そのためには、北山氏の「社長5ヶ条」の実行力にかかっている。「東条さん、大丈夫ですよ、彼らと一緒に私はやりますよ」という北山氏の言葉に、北山氏の変化を感じている。
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